稚鮎遡上シーズン「野根川にある4基の頭首工について」

野根川沿いの桜も咲き始め気候も暖かくなり、物部川・奈半利川も稚鮎の遡上が始まったとの知らせを聞きました。それから遅れること2週間、野根川にも鮎が帰ってきました。


野根川はダムのない河川ですが、4基の頭首工(堰)があります。下流から、鴨田頭首工・長峰頭首工・余家頭首工・大斗第一頭首工。これらの頭首工は、田畑に水を引くため、町を水害から守るために作られたのでしょう。

各頭首工には全て魚道が設けられています。魚道とは、魚の遡行が妨げられる箇所で、遡行を助けるために川に設ける工作物です。しかし、この魚道が壊れていたら、機能していなかったらどうなるだろうか?答えは簡単。魚は遡上することも、降海することもできなくなるのです。魚道が機能していないことは、鮎本来の生態系を壊していることにもなります。

我々が2016年から始めた野根川魚類調査では、各頭首工の遡上調査も合わせて行ってきました。

下のグラフを見てください。2016年春に行った鮎遡上調査結果です。グラフが飛び抜けているのが、鴨田頭首工直下と長峰頭首工直下。


鴨田・長峰頭首工直下に何万尾という数の鮎が滞留しているのが分かりました。そこで2016年冬に鴨田・長峰頭首工の魚道改修工事を行ったのです。

鴨田頭首工は左岸・中央・右岸に3つの魚道が設けられています。どの魚道も長年の劣化により魚道内の隔壁が崩れ、魚道としての機能を果たしていませんでした。今回は遡上のメインルートとなっている左岸と中央の魚道改修を行ないました。



崩れた隔壁を一旦取り除き、鉄筋を打ち、階段状になるよう植石をしました。そして、鮎が休めるプール(よどみ)を作ることによって1段ずつ上れる魚道を作りました。春の調査では魚道が真っ黒になるほどの鮎が確認されました。


続いては鴨田の1つ上流の長峰頭首工。こちらも調査の結果、頭首工直下に多数の稚鮎が滞留していました。原因は魚道の流れ、魚道内にサッカーボール大の石が植石されていたようですが、大水の際に破損したり、流されており直線的な流れになっていました。そのため、途中まで上がった鮎も力尽き流され、頭首工直下に滞留していたことが分かりました。以前から長峰頭首工を遡上する稚鮎は、右岸側に寄って遡上する傾向があったため、右岸の幅4mを改修することになりました。こちらも構造的には鴨田頭首工と同じように、植石を行い流れが階段式になるように改修しました。

下流から3つ目の頭首工は、余家(ヨケ)頭首工。こちらの頭首工は比較的新しいもので、魚道内の破損個所等は見られませんでした。しかし、1つ問題が...。

下の写真のように、流れが2つに分かれている箇所があります。1つは魚道側へ向かう流れ(写真B)、もう1つは1m下へ直下する流れ。(写真A)どちらにも通水してるので良いかと思いますが、問題は水量の違い。遡上する魚は流れの強いほうに向かって泳ぎ上流を目指します。なので稚鮎も写真A、1mの壁が立ちはだかる方に寄ってしまうのです。


そこで、この水量を逆転させるのが好ましいと考えました。魚道側を強い流れ、直下側を弱い流れにすればより良くなるのではないか。

ここは人力で行いました。4m角材を2本用意し、堰板代わりに設置しました。堰の上流に農業用水の取水口があるので、土砂が溜まらないよう土砂掃けのスリットも入れて完成。

その結果堰上の水位が25cmほど上昇し、魚道側へ流心を向けることができました。これで稚鮎も魚道への侵入経路を間違えないでしょう。

最後は今年2月末に改修工事を行った、大斗第一頭首工。野根川で最後の堰になる、ここを遡上できれば後は壁になる構造物は存在しません。

大斗は今までの堰のように、壊れた魚道を改修するわけではありません。両岸と中央に魚道があったのですが、魚道の底が抜けているほど破損は酷く、また堰があることによって上流側には土砂が堆積していました。農業用の取水口も土砂で埋まり、下流にあった田畑も今は休耕地となっています。堰としての役割もなく、ただ残ってしまっているだけです。

そこで大斗は、堰(壁)ごと壊してしまおう。堰を壊して元の姿の野根川にしようと工事計画が始まりました。

まずは県の土木事務所に許可を出してもらう必要があります。もちろん勝手には壊せません。

そのために何度も土木事務所に許可をもらうために通い続けました。ここで痛感したことは、過去に必要で作った物を壊すとなると、そう簡単には許可が出ないということです。

鮎や他の生物の遡上の事、護岸の根入れ調査、試掘調査などなどをまとめ、やっと許可がおりました。

そして2月末、工事開始。

中央魚道をそのまま残し、その両岸約4mずつの堰を取り壊しました。両岸合わせると約8mのコンクリート壁が取り除かれました。また、堰中央には落差70cmほどの段があります。段の下にプールを階段状に作ることで70cmの落差を解消しました。

また、コンクリート壁を約120cm取り除いたので、上流の河床も120cm下がることになりました。試掘調査の時に約70cmほど掘ると、大きな石が出てきました。そこが昔の野根川の河床だったのでしょう。それが堰が出来たことによって土砂が溜まり、鮎の餌場も埋めてしまったことになります。上流側には土砂で埋まっていた大石が現れ、より良い大斗の姿に変わりました。



4月に入り鮎の遡上が確認されています。どの堰も直下に滞留することなく順調に遡上できているようです。もちろん大斗堰も大成功で最後の堰を越えていく鮎たちを確認できました。

野根川リバーガイド 御処野 誠

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