山口直哉「森と水の四方山話」vol.02

桜の花も散り、生命感みなぎる新緑の季節になりました。夜に新緑の森を見ると、成長する葉が動いているように感じるのはボクだけでしょうか (笑)。

ボクは新緑の季節が一番好きです。里の新緑が始まる4月中旬から高地の新緑が終わる6月初旬頃まで、ずっと新緑の中に身を置きたいくらいです (笑)。特に、原生林に囲まれた中禅寺湖の新緑は格別です。

中禅寺湖南岸、上野島付近。

中禅寺湖南岸、上野島付近。

フライフィッシング

毎年、4月下旬になると庭のヤマシャクヤクが咲き、その頃になるとソワソワしていても立ってもいられなくなります。なぜならこの白い可憐な花の開花を、中禅寺湖の釣りシーズンの到来を告げる目安にしているからです。

この花が咲くとソワソワ(笑)。ヤマシャクヤク。

この花が咲くとソワソワ(笑)。ヤマシャクヤク。

三寒四温のこの時期の中禅寺湖は、まだまだ寒く、雪が降ることも珍しくありません。しかし、4月1日の解禁当初は2〜3度だった水温も、暖かな強い春の陽光に照らされ、徐々に4度、5度、そして6度と上昇していき、長い冬に終わりを告げます。

5月、暖かく強い日差しは森の季節を一気に進める。

5月、暖かく強い日差しは森の季節を一気に進める。

水温の上昇はユスリカの羽化を促します。羽化が本格化した頃、マス達もいっせいに活発化します。冬場のエサであるワカサギなどの小魚は捕らえるのに労力が必要ですが、春になると動きが遅くて容易に食べられる水生昆虫が出現して熱狂するのです。

中禅寺湖は、およそ1300mの亜高山帯に位置します。寒冷気候で夏が短く、そのため季節の進行が速いので湖水を取り巻く環境は足早に移ろいます。ワカサギの産卵に伴う接岸や、ユスリカやモンカゲロウなど水生昆虫の羽化、エゾハルゼミなど陸生昆虫の出現など、1週間、あるいは数日刻みで刻々と変化します。

フライフィッシングの目的は、魚を釣ることだけではありません。足早に移ろう季節に合わせて出現する、豊富な生物をトラウトは餌にします。「今トラウトは何を食べているのか」と思いをめぐらせ、「マッチザベイト」の釣りを組み立て、季節感を五感全てで感じ取り、大自然と一体化することが大きな楽しみです。

新緑のフライフィッシング!

新緑のフライフィッシング!

鱒のエサにならず運良く岸に流れ着いたエゾハルゼミ。

鱒のエサにならず運良く岸に流れ着いたエゾハルゼミ。

花・山菜・昆虫

まずは奥日光に春を告げる花アカヤシオがモノクロの山を彩り、例年5月の連休後半には湖畔のオオシマザクラが満開になります。桜が散ると、これを合図にしたように一斉に樹々の葉が開き始めます。

オオシマザクラが開花!遠く白根山を望む。

オオシマザクラが開花!遠く白根山を望む。

春の恵み、山菜も同様です。残念なことに地上生の山菜は、鹿の食害によりほぼ絶滅してしまいましたが、まず5月中頃になると里より1ヶ月以上遅れてタラの芽が採れ、満開のシロヤシオが散り始めると、風味が上品でおひたしにすると絶品な山菜の女王コシアブラが丁度イイ状態になります。

5月中旬、標高1500m付近で採取したタラの芽。

5月中旬に標高1500m付近で採取したタラの芽。

山菜の女王コシアブラ。

山菜の女王コシアブラ。

そのおよそ1週間後、今度は同じウコギ科で、天ぷらが美味しく、苦味が病み付きになるアクダラ(センノキの芽)が沢山採れます。新緑が進み湖畔が明るい緑のグラデーションになると、濃いピンクのトウゴクミツバツツジが咲き誇り、彩りがさらに増します。

6月初旬、満開のトウゴクミツバツツジ。

6月初旬、満開のトウゴクミツバツツジ。

そして、昆虫類も活動を始めます。注意深く観察すると、ブナやトネリコの新芽にコルリクワガタが飛来する姿を見ることができます。イロハカエデの花は、蜂やカミキリムシ、コガネムシ、コメツキムシなどの訪花性の甲虫類の食事処として大いに賑わいます。

亜高山の生命感みなぎる新緑は、原始の森や湖に暮らす全ての生命に、また東京に暮らす自分にまでもパワーを与えてくれます。今、ボクは奥日光の新緑を夢見て、仕事とフライタイイングを満喫しております(笑)。

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