山口直哉「森と水の四方山話」vol.06

カミキリ採集は宝探し

今回は次号と合わせて甲虫の中でも特に人気の、カミキリムシ(以降カミキリと呼称)採集の魅力について語りたい。

カミキリは日本全国でおよそ900種、関東近郊だけでも300種を超える。

その中には希少な種や生態不明種も含まれ、さらに都道府県単位の未記録種や、もしかしたら新種発見の可能性だってあり得る。

またそれぞれが異なる外見・姿形というだけでなく、それぞれに異なる生態、食樹が存在し、それらが発見のキーワードにもなるのだ。

希少な種や美麗種、生態不明種、未採集種を採集する為に、生態や食樹となる植物の判別やその分布等について調べ、採集計画を組み立てる。

それらヒントとなる細かなピースを1つ1つ繋ぎ合わせて考察・推理し、狙い通り採集出来た時の喜びは筆舌し難い。

また美麗種やハチなどに擬態するなど、形態・色彩的に面白い種が多いのもカミキリの魅力の1つだ。

さらにストレスにまみれた都会の雑踏を離れ、大自然の中、場合によっては原生林の美しく奥深い山中に身を置ける喜びも、同時に味わう事が出来る。

 

では採集の詳細について話してみよう。

まず食樹が判明している種なら、食樹を探す。

食樹が判明してない種の場合は過去採集されたシチュエーションや、種や属の特徴などから、生息地域、垂直分布、食樹を推理することから始める。

カミキリムシをはじめ多くの甲虫は、偶然発見されたとしても、産卵行動や後食活動など必ず何かしらの理由があってその場所にいる。

甲虫採集は魚釣りと比較すると、数段サイエンティフィックでロジカルに説明出来、良かれ悪かれ結果は正直だ。

カミキリ採集では偶然は無く、殆どが必然だと言って良い。

 

食樹または当たりを付けた樹種がどこに生えているか?

樹には樹種それぞれに適した環境があり、標高・陽当たり・尾根筋あるいは谷筋に多いのか?など、食樹を探す為に植物の知識を頭に入れる。

例えば、多くの種のホスト及び成虫の後食対象になるハルニレは、関東甲信越では700m〜1200m付近に多く、川や沢沿いなどの水周り、湿潤傾向の土地に生える。

ハルニレの葉

ハルニレの葉

ハルニレをスウィーピング

ハルニレをスウィーピング

またカミキリは種毎に樹種のみならず、部位や状態に好みがある。

例えばキジマトラカミキリはコメツガの衰弱木の樹幹を好み、

枯死後時間の経過した立枯れや倒木、生き生きした状態、また衰弱木でも細枝には集まらない。

キジマトラカミキリ

キジマトラカミキリ

 gアラメハナカミキリは、アオモリトドマツの立枯れ後数年を経過し、樹皮がハゲ出した状態の樹幹の下部を好み、生木はもちろん、倒木には興味を示さない。

アラメハナカミキリ

アラメハナカミキリ

次はロケハン。

実際のポイント探しだ。

目星を付けたエリアで車を走らせ、事故らない程度よそ見運転をしながら樹相チェックをする。

「コレは怪しい」という場所が見つかったら、車を降り辺りをチェックする。

シーズンオフのキノコ狩りやトレッキング、釣り、ドライブ、別の採集のついでや時間外等にロケハンを済ませておくと、シーズン中に無駄な時間を費やさずに済む。

 

最後に採集のシチュエーションを想定する。

例えばハンノキカミキリ。

メスならハンノキ類の幹や枝に産卵に訪れる午後を狙い、オスは夕方に食樹の樹上を飛び交う習性がありこれをネットで狙う。

またオスメス共に成虫は葉を後食するので、姿が見えなくてもブラインドで葉っぱごとネットを被せ、軽く揺すって落とす。これはスイーピングというテクニックで、ノリウツギやミズキといった樹に咲く花に集まる昆虫を採る際にも行われる。

ハンノキカミキリ

ハンノキカミキリ

オニホソコバネカミキリは生木の芯枯れ部を幼虫が食う。欅など広葉樹の大木のウロや枯死部にメスが産卵の為に、またオスはメスを目当てに配偶行動で飛来する。

また過去養蚕が盛んだった地方では、養蚕の為に枝打ちや下草刈りなど手入れされた古木の桑畑からも発生する。枝打ち等人為的な作業によって生じた芯枯れは、偶然にもオニホソコバネカミキリの生育に適した状態になった。しかし養蚕業の衰退により、桑の葉は必要無くなり、邪魔になった桑の木は伐採され、それと共にこの虫は各地で絶滅の危機に瀕している。

この種はオスメス共に桑の葉裏にぶら下って夜を過ごす為、早朝活動する前に見回り採集する。

その日の天候が晴れならば、オスはその後桑畑をパトロールするかのように飛ぶので10時くらいまでこれをネットで狙い、メスは昼前位から午後3・4時くらいまで産卵場所を探す為、樹を品定めするように樹から樹へとホバーリングするのでネットで狙う。

また気に入れば枝打ちした小口や、枯死部に産卵しているので、飛んでいる個体だけではなく、これにも気を付けて見回らなければならない。

オニホソコバネカミキリ

オニホソコバネカミキリ

つづく。

次号では実際の採集について話したいと思う。(採集記)

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